夜遅い時間の満員電車は、
自分が疲れていることも相まって、
どんよりとした気持ちになることが多い。
今日の車内もずいぶんと混雑していた。
静けさには様々な種類があるけれど、
ここにあるのは、
どことなくピリピリとした静けさ。
そんなとき、若い女の子が、
おじさんに向かって、ゆったりと言葉を発した。
「リュックが開いていますよ、
中身が落ちてしまいそうで心配で」
なんとも、自然で優しい声だった。
おじさんは、少し照れくさそうに、
でもなんだかうれしそうな表情をしていて、
「ありがとうございます」の言葉が温かく響いた。
ぱっと車内の静けさの種類が変わるのを感じた。
駅について、改札を抜けると、
ちょうど、皆既月食が始まっている。
遅い時間だと、ほとんど人通りのない帰り道だけど、
今日は、夜空を見上げる沢山の人たちとすれ違う。
それぞれの人の時間が、
そっと止まってしまったような、静かで温かい感覚に。
24時をまわって家に戻ったのに、
ほとんど疲れを感じていないことが不思議。